[思索][本]すぐには真似されないイノベーションを実行する方法
「他社にはすぐに真似のできない事業について考えろ」と言われて議論をして「これはきっとうちの会社のコアコンピタンスだ」とか「こういう新結合が必要なんだ」というアイデアがいろいろ出てきても、なかなかそれが実行に結びつきません。それはどうしてなのかを最近ふつふつと考えていました。そして今日、自分なりになんとなく結論らしきものが見えてきました。それは、
イノベーションの実行を阻害しているのは、実は、そのイノベーションを必要としている自社自身だ
ということです。
どういうことなのか、参考になりそうな書籍を紹介しながら述べます。ない知恵を絞って書いているので、様々ご指摘いただければ幸いです。
ちなみに、大企業におけるイノベーションについて述べています。ベンチャーや個人でサービスを立ち上げるときのイノベーションについては、これはあまり当てはまらないかもしれません。
真似できないイノベーションとは
イノベーションといえば、シュンペーターをはずしては語れません。シュンペーターとイノベーションに関しては、「[amazon asin=4004302730 type=inline]」が良いと思います。
イノベーションとは、シュンペーターの定義から言えば「生産的諸力の結合の変更」すなわち「新結合」です。すなわち、その新結合を知ってそれを真似て実行すれば、他社のイノベーションをコピーして実行することができます。
シュンペーターの時代は生産ラインとか人の問題などでその新結合を真似することは難しかったのですが、現代はほとんどの生産的諸力は流動的になってしまっているため、必要であれば多くの場合はすぐに確保することができ、新結合をもたらすことが可能になります。
だとすると、現代における真似できないイノベーションとは何なのでしょうか。それは、大企業として「実行の決断が下せない」ようなイノベーションではないかと、私は考えています。
アイデアだけあっても実行しなければ意味がない。あるアイデアを誰かが実現して成功したときに「そのアイデアは俺が考えていたんだ」と言っても空しい。それと同様に、いくら優れたイノベーションを事前に知っていたとしても、それが実行できなければまったく意味がないのです。
大企業は無難なイノベーションしか実行できない
すると、実行の決断を下せないようなイノベーションであれば、他社はすぐには真似できないということになります。
言い換えれば、大企業の上層部が決断に迷うようなイノベーションであれば良いということです。
企業の規模が大きくなればなるほど企業の社会的責任は大きくなりますし、失敗したときに影響を与える従業員の数も協力会社も含めれば相当な規模になります。このような人たちを路頭に迷わせてはなりません。したがって、意思決定には相当な責任がまとわりつき下手な決断はできなくなります。
するとどういうことが起こるかというと、意思決定権を持つ人は非常に分かりやすい「どう考えても成功するでしょう」というような無難なイノベーションに対してしか実行の決断を下せなくなります。具体的に言うと、定量的に評価できる情報でしか決断が下せなくなるということです。たとえば、これまでこの機能を高機能にしたらこのように成功してきたから、さらにその機能をより高機能にしたら売れるかもねとか、みんなスピードを求めているからこのスピードをもっと速くしたらもっと売れるかもねとか、そういうことです。
実はそうやって顧客のニーズを聞いてそれに忠実に応えていく優れた経営を行う企業がなぜか崩壊してしまうという話は、有名な「[amazon asin=4344980530 type=inline]」の話ですが、それは今回は触れません。
アイステシス・イノベーション
定性的な評価しかできない、たとえば「この商品はあえてこれだけの機能を削ったとしても、こういうデザインにした方が高く売れるようになるかもしれない」という直感に頼らざるを得ないイノベーションの場合、それがどんなに優れていたものだとしてもその決断を下すのは非常に困難になります。それこそが他社に真似のできないイノベーションなのではないかと考えています。
その考えを補強してくれたのが、最近読んで感動した本のひとつである「」です。「組織」「上司」「仕事」「処遇」のそれぞれの品格について鋭い本質を突く指摘を次々と繰り広げる内容なのですが、「上司」の品格の章で、
常に物事の数値化を求めるような上司のもとでは、組織はどんどん縮小均衡の方向に向かってしまいます。ところが、こういう上司がバブル崩壊以降、ずいぶんとはびこってしまっているという印象があります。数値化できないからゴーサインが出せない。証明されていないからゴーサインが出せない。
というくだりがあります。まさにその実例を目の前でよく見てきているので「ずいぶんとはびこってしまっている」という印象は私も感じるところです。であればこそ、そこの逆を突いて数値化できないイノベーションをどんどんと実行していくことにより、他社との差異化をはかり簡単には真似のできない事業を推し進めることができるようになるのではないでしょうか。
すこしだけ具体的に言うと、その数値化できないイノベーションのひとつに「アイステシス・イノベーション」があります。アイステシス・イノベーションについては「[amazon asin=4757121741 type=inline]」を参照してください。
簡単に言うと「美しさ」「使いやすさ」などの「感性的」な軸における向上を実現するイノベーションのことです。この領域での数値化の試みは数多くされていますが、本当にその商品を買おうと思うかの判断を下せるだけの信頼のおける指標はないといってよいと思います。
このようなイノベーションが成功するかどうかは、人の「直感」に頼らざるを得ないのです。数値では表せないため、意思決定を下す人の感覚が非常に重要になります。しかし繰り返しになりますが、そんなまったく信頼のできない情報しかないイノベーションを実行する決断を下すなんてありえないという上層部が非常に多いのです。
戦略を立てて実行する
「上層部が悪いんだ」そう言うのは簡単ですが、それだけではまったく意味がありません。彼らは彼らなりに悩んでいるのです。出世するために根回しやらゴマすりやらをして上ってきた人だけではなく、実は若いころは無茶なこともしたりものすごい業績を残したりして活躍してきた人もいます。しかし、あまりにも重い責任を負うポストについたとき、心の中では「違うな」と思いつつも自分が正しいと思う決断を下せなくなってしまうのです。
したがって、そういうポストにはついていないまだ自由にいろんなことを試せる役職にいる人が活躍しなければ、このようなイノベーションは起こせないということになります。他社に真似できないイノベーションは、そういう人たちによって実行されるべきだと私は思います。
ところが、どんなにいいアイデアを持っていても「上が理解を示してくれないから」とか「どうせ却下されるから」と言っては、イノベーションを実行できない責任を上になすりつける人がなんと多いことか。それでは結局何もできずに泥のように働かされて、気づいたら何もできない役職に上ってしまうだけです。
自分が「これは絶対にいける!」と直感できたアイステシス・イノベーションがあるのなら、実行しなければもったいない。しかし何が何でもやるんだと意気込んでも失敗するだけです。そこはきわめて戦略的に進めなければなりません。
その戦略の立て方については、「[amazon asin=4887596448 type=inline]」が非常に参考になると思います。戦略とは何かから始まり、情報収集と分析、目標設定、戦略立案、戦略実行の方法について、非常に分かりやすくまとめられているのですが、私としては、戦略とは人の心をいかに読むか、うまくつかむかに尽きるんだなぁというのが、全体を読んでの感想です。まさに今、実際に試しているところなのですが、面白いほど自分と他人がつながっていくのが分かります。
この本を読んだ直後に、「[amazon asin=4320023684 type=inline]」をあわてて読み返しました。「他社の真似できないイノベーションが実行できない」という問題を戦略的に解決する方法がこの2冊の本から具体的な行動として導くことができるだろうと考えたからです。どんどん掘り下げてそれぞれの関係する人が抱える問題の本質を突き詰めていくと「じゃあいったい自分は何をすればいいのか」が徐々に見えてきました。これについてはあまり具体的に書くことは憚られるので書きませんが、結論はこうです。
その結論は?
「役職を超えて、腹を割ってコミュニケーションする」ということです。
なんだ当たり前じゃないかという話ですが、私はこれしかないと思いました。とにかく自分が「こうするべきだ」「これが現場で問題になっているんだ」「こんな研究をやっているんだ」と信じることや思うことややっていることをみんなが語り合う。その中できっとすごいイノベーションが生まれてくる。そしてそのイノベーションをみんなで実行していく。どうしても最終的には上層部の判断になってしまうけれど、そこも「コミュニケーション」が重要な役割を果たす。
最終的には、社長の自宅に伺って同じ会社の人間だということを忘れて話がしたい。そこで伝えたいのは「たとえ失敗したとしても、私は一切あなたのことを批判したりしません、むしろ賞賛します」ということです。そして、同じ想いを持つことのできる人たちを会社内に増やして、その人たちの想いを可視化するのです。できればそれを会社の外、特に株主にも共有させたい。
つまり、失敗の責任は確かにあるかもしれないけれど、それを負っても有り余るぐらいの「真の仲間」からの暖かい応援が、他社には真似のできないコアコンピタンスとなりうるのではないか。そしてそのコアコンピタンスが、アイステシス・イノベーションや、困難と思われるイノベーションを実行できる原動力になるのではないか。
それが私の結論です。
そして、それを実行するための戦略の第1ステップは「社内SNS」だと思います。今、まさに具体的にいろいろと行動しています。
まだまだ
考えなければならないことはたくさんあります。「[amazon asin=4887596448 type=inline]」にも書いてあることですが、戦略は現在位置が変わればどんどんと変わっていくものです。「一度決めたことだから」といってそこで議論をとめてはなりません。もしかしたらその過程でここに書いていることが全くのウソになることもあるかもしれません。ここまで書いておいてそれを否定するのは自分にとってはかなりの抵抗がありますが、それでも常に自分の現在位置を確認しながら、戦略を練り続けたいと思います。